ここでは、第二立論や反駁で有効な反論のしかたについて説明します。
相手の主張に反論するには、以下の5通りが考えらます。
1.相手の根拠の矛盾点や問題点を指摘して、その主張は成り立たないと主張する
2.別の根拠を持ち出して、相手の主張は誤りであると主張する
3.情報や証拠の不足を指摘して、相手の主張は成り立たないと主張する
4.相手の主張は認めるが、その重要性がとるに足らないと主張する
5.相手の主張は認めるが、現状の改良で同じ効果が得られると主張する
矛盾を指摘する
例えば、「日本は大統領制を導入すべし」という論題での、肯定側の「大統領には権限が集中しているので、イニシアティブを発揮できる。
これによって、タイムリーな政策がとれ、政治がよくなる。」という主張に対し、「大統領といえども党の代表であり、意志決定は従来通り、党内での根回しや、合議によってなされる。
したがって、イニシアティブは発揮できず、タイムリーな政策はとれず、政治はよくならない。」と主張する場合です。
相手の主張の根拠の一部である「権限が集中しているので、イニシアティブを発揮できる」を否定することで、ラベルの「政治がよくなる」が成立しないことを主張するのです。
相手の主張するラベルそのものを完全否定するわけではありませんが、少なくとも相手の主張する根拠では、ラベルが成立しないことを示します。
これは、ディベート用語で「リンクを切る」というもっとも基本的ですが、もっとも難しい反論です。
しかし、実社会においても有効な技術ですので、ディベートを通じて習得したい技術の筆頭でもあります。
別の論拠を持ち出す
例えば、「日本はサマータイム制を導入すべし」という論題での、肯定側の「活動時間における日照時間が長くなるので、電気をつける時間が減り、省エネになる。」という主張に対し、「新産業が起こり、エネルギーを消費するので、省エネにはならない。」と主張する場合です。
相手の主張の根拠「活動時間における日照時間が長くなるので、電気をつける時間が減る」には反論せず、別根拠「新産業が起こり、エネルギーを消費する」により、ラベルである「省エネになる」という点にだけ反論することになります。
双方の主張が数量換算できれば、その大小により優劣が決まります。
しかし、数量換算できない場合や、そのデータがない場合は、比較のしようがないので、議論は平行線に終わることになります。
なお、反論する側の主張が、反論される側の主張を数量的に上回った場合、ターンアラウドとなります。
情報や証拠の不足を指摘する
例えば、「日本は陪審性を導入すべし」という論題での、否定側の「一般市民は職業裁判官より事実認定能力に劣るので、誤審が増える」という主張に対し、「一般市民のほうが職業裁判官より事実認定能力に劣るという客観的データがない。
また、裁判官に対して、事実認定能力を向上させる訓練が施されているというデータもない。」と主張する場合です。
相手の根拠「一般市民は職業裁判官より事実認定能力に劣る」そのものに直接反論するのではなく、根拠を支えるデータの不備/不足を指摘して、根拠が成立しない(したがって、ラベルも成立しない)と反論します。
この反論は、さらに以下のように大別できます。
- 証拠そのものがないと主張する。
- 提出された証拠の出典が、中立性や権威性に欠けると主張する。
- 提出された証拠では、主張するラベルを支持していないと主張する。
重要性を攻める
例えば、「日本は酒類を対面販売にすべし」という論題での、否定側の「購入者の利便性がそこなわれる」という主張に対し、「表の自動販売機で買うか、店に入って買うかの違いだけで、著しく利便性がそこなわれているとはいえない。」と主張する場合です。
相手の主張するラベル「購入者の利便性がそこなわれる」は認めるが、その量が少なく、重要ではないと主張するのです。
この反論の場合、相手の主張を完全にはつぶせないので、自己の主張する別のメリット/デメリットを成立させなければ、トータルとしては負けとなります。
現状の改良を主張する
例えば、「日本は陪審性を導入すべし」という論題での、肯定側の「職業裁判官は判官交流により、官僚であった時期があり、国が被告の裁判において中立性が維持できない。」という主張に対し、「判官交流をなくせば、肯定側の主張するような弊害は発生しない。
つまり、現状の改良で対応できる。」と主張する場合です。
ディベートの場合、相手の主張を不成立に追い込めなくても、現状改良で同じ効果が得られるなら、否定側の勝ちとなります。
この現状の改良は、よく肯定側が忘れがちなポイントですので注意しましょう。
注意
相手の主張する根拠や証拠が、メリット/デメリットのラベルを正しく支持していることを確認しましょう。
いい加減なラベルを付けると、根拠や証拠がラベルの一部しか支持していないことになりかねません。
これは見落としがちな盲点ですので、反対尋問も利用して、相手のラベルは確実にメモしておきましょう。